「くまんげん」
2020
2020㎜×1350㎜
箔合紙、チャコール
「くまんげん」は、岩手県は葛巻町で出逢った上高山兼太郎さんの木彫り熊を、拓本の技法を用いて移しとったものです。上高山さんの生家に遺されたツキノワグマ型の木彫り熊を触っていくうちに、意図せず立ち上がったような姿になりました。このような技法を用いるには様々な偶然やプロセスがあり、決して一人でつくったものではありません。不思議な縁の重なりにより生まれたのが「くまんげん」です。
2020年春、わたしは岩手県は葛巻町にて新生活を始めました。
たまたま葛巻に関する本を読んでいた時、「葛巻で昔、木彫り熊を作って北海道へ売っていた人がいた。」という一文に出逢いました。その時、「東北生まれの木彫り熊は、最初は北海道のヒグマをモデルにしていても、だんだんと身近に棲むツキノワグマへと変容していくのではないか?」という問いが浮かび、共鳴する美術家、是恒さくらさんと共に調査を始めました。
現在、木彫りを制作していたのは上高山兼太郎(1926-1988)とわかり、葛巻に残る作品を探しつつ、聞き込みを続けています。彼の木彫り熊がどの様にして北海道へ渡っていったかはわかっておらず、「木彫熊通信」の発行を通して情報収集、発信を続けております。
木彫熊通信 Twitter @kiboriguma_2s
木彫り熊に触れる
2020年初秋、上高山さんの娘さんが今も生きていらっしゃるという事で、その場所を探し訪ねてみました。すると、庭仕事をしていた上高山さんの娘、スガ子さんに会うことが出来、家の中にあった木彫り熊を見せて頂くことが出来ました。その時目に飛び込んできた、大きな木彫り熊と、胸元に光る月の輪の衝撃は忘れられません。
そこから暫らく、この家に通い、上高山さんの木彫りに触れ、手つきを真似してみたりしながら自身の手で考えてみることを続けています。丁度その頃、秋田公立美術大学主催の「旅する地域考」に参加が決まり、その中の様々なプログラムや受講生、講師の先生方から影響を受けながら調査を進めてきました。そのプロセスが、2020年11月28日から秋田県立近代美術館にて開催された「ARTS&ROUTES -あわいをたどる旅-」の中の、旅する地域考のブースに展示されました。