この企画公募を知ったとき、祖母が昔広島に住んでいたことや、現在彼女が住んで
いる米沢市にあった大きな工場が広島に移り、たくさんの従業員が一緒に移住して
いった話を思い出しました。工場の跡地は現在中学校になっていて、たくさんの生
徒が学んでいます。何らかの外的要因によって人は流れる。移動する。そしてそこ
にはまた、新しい建物が建ち、人々の生活が始まることをとても感慨深く聞いたこ
とを覚えています。ぽっかりと空いた空間には、また新しい風が吹いてくるのです。
3月11日の震災により、たくさんの人々が生活場所の移動を余儀なくされています。
自然災害と原発事故という最悪の事態。たくさんの人が家族を失い、住処に帰れな
いでいます。66年前、広島は、原子爆弾によって本当にたくさんの生命が奪われま
した。これから60年後、東北の沿岸部、そして福島はどのような風景になっている
のでしょうか。現在のたくさんの人々が行き交う広島に思いを馳せないわけにはい
きません。
この企画でわたしは、一枚の平面作品と、毎日展示会場に届くデジタルイメージと
手紙を用いた作品を発表します。平面作品は人間の力がテーマ。デジタルフォトフ
レームには、毎日描くドローイングや漫画が送られてきます。手紙は私と祖母、東
北に住む数人の協力者から展示会場に毎日届きます。「毎日描き(書き)続ける」
という行為には違いがありませんが、それぞれが観客に届くまでの道のりや時間は
全く異なるものです。立ち上がるイメージも様々。完成した平面作品とデジタルデ
ータ、手紙が届けられ続けることにより、風のように変化に富み流動する人間の生
活や時間、感情を観客の皆様に伝えられたらと思います。
「SARUKEN」
2011
170.0×85.0cm
ペン、インク、ワトソン紙、木製パネル
ink on Watoson-paper, mounted on panel
作家蔵 artist collection
私が住む宮古市から毎日近況報告の手紙が届きます。何気ない普通の生活の内容です。
未開封のものは開けて読む事ができます。
それから、昔広島に住んでいた祖母(現在は山形県在住)からも手紙が届いています。
祖母の手紙は、昔の広島の様子や、近況が綴られています。
手紙を開封して読む事は、ただ張ってある紙を読むよりもぐっと距離が縮まると考えています。手紙のように個人的なメッセージから宮古市の日常の風景をイメージしてくれたらうれしいです。
これは、デジタルフォトフレームを利用したもの。
毎日私の携帯からイメージを送ります。ドローイングや漫画、写真など。
現在、私たちが利用している様々なサービス上で飛び交う多様なイメージ類、その一部がこの広島の地に定着します。膨大な通信量の一端からわき上がるイメージはどんなものになるでしょうか。